1 民法を学ぶ前に

まず、民法を学ぶ前に、「法律とは何か?」について、考えてみたいと思います。
皆さんは、法律というものを見たことがありますか?
これは、カンボジアの憲法、民法、そして刑法の写真です。
これらは法律の代表的な例といえますが、皆さんの中で実際に見たことのある人は少ないと思います。
実際、私も、法律の学習を始める前までは、日本の民法と刑法は見たこともありませんでした。

それでは、皆さんは、法律について、どのようなイメージを持っていますか?
こんなイメージは、持っていませんか?
つまり、法律は、「国家が決めた絶対のもので、国民は守らないといけなないもの」である。
たしかに、たとえば刑法には、国民が守らなければいけないものが多数規定されています。

しかし、特に民法に関しては、このようなイメージは、間違っています。
民法は、「国家が決めた絶対のもの」でも、「国民が守らなければいけないもの」でもないのです。
そのように考える理由を、これから説明します。

民法の中で、何が一番大切なのでしょうか?
それは、私たちの「意思」です。
それでは、「意思」とは何でしょうか?
「意思」とは、何かをしようと考えることです。
人は、それぞれ「意思」を持って生きています。

それぞれの人の自由な「意思」によって、お互いの社会生活を形づくる。
これが、民法の基本的な考え方です。

そのため、民法には、「絶対に守らなければいけない規定」ではないものが、たくさんあります。
そして、私たちが、自由な意思で、民法の条文と違うルールを作れば、私たちが作ったルールが優先するのです。

法律について、「国家が決めた絶対のもの」とか、「国民が守らなければいけないもの」と考えると、法律の学習は、条文を覚えることがメインになり、おもしろくなくなります。
しかし、民法は、私たちが自由な意思で自由にルールをきめることを基本としています。
このように考えると、民法の学習は、面白くなってきませんか?これから法律を学習しようとする人は、民法の学習を楽しんで下さい。

2 民法は何を扱っているの?

それでは、次に、「民法が何を扱っているのか?」について、確認したいと思います。 民法は、私たちの日常生活に最も身近な法律といえます。 そのため、民法は、とても重要な法律なのです。 それでは、人の一生をめぐって、具体例を見ていきます。

まず、人の人生は、この世に生まれることから始まります。 民法は、人について、生まれたその日から、「一人の人間として、社会生活を営むための基本的な力」を認めます。 「一人の人間として、社会生活を営むための基本的な力」のことを、民法では「権利能力」といいます。 人はみんな、生まれた瞬間から、死亡する瞬間まで、この権利能力を平等に持っているのです。 つまり、民法は、赤ん坊、学生、大人、老人、男の人、女の人も、平等に権利能力を持っているとして、すべての人は平等であることを前提に考えています。

しかし、まだ子どものうちは、いろいろなことを考えて判断する力が足りず、「法的な関係を作る能力」を十分に持っていません。 そこで、民法は、子どもが他の人と社会生活関係を形づくるときには、親の同意などを必要としています。 なお、「法的な関係を作る能力」のことを、民法は、「行為能力」と呼んでいます。

そして、人は、徐々に自分自身で考えて判断する能力を身につけていきます。 民法は、成年に達した時、つまり満18歳になった人は、自分自身で「法的な関係を作る能力」、つまり「行為能力」を十分に身につけていると考えています。 そして、人は、車などの物を、自分自身で自由に使ったり、処分したり、その物を使ってお金を得たりすることができます。 この人と物との関係についても、民法が扱っている分野です。

また、人は、他の人と自由な意思を合致させ、法的効果を発生させる約束を結ぶことができます。 人と人が契約を結ぶと、それぞれの人は、行為を要求する権利や行為を行う義務を持つことになります。 このような人と人との関係も、民法が扱っています。

ときには、交通事故を起こしたり、または交通事故に遭ってしまう人もいると思います。 その場合、交通事故の被害者は、加害者に対し、損害を賠償するように請求することができます。 これは、民法のなかでも、不法行為法と呼ばれる分野の問題です。

また、お金を借りた人から頼まれて保証人になる人もいると思います。 この場合、保証人は、お金を借りた人の代わりにお金を返さなければならないときもあります。 これは、民法のなかでも、債務担保とよばれる分野の問題です。

そして、多くの人は、夫となる人、または妻となる人を見つけて、付き合い、結婚します。 結婚した人は、子どもが生まれる場合もあります。 また、場合によっては、夫や妻と離婚する人もいます。 このような結婚、離婚、親子の関係も、民法が、取り扱う分野です。

こうして、人は精一杯生きてその人生を終えると、そのひとの財産を妻又は夫や子どもたちに受け継ぐことになります。 そのとき、死亡する人は、最後の意思として、遺言書を書き残すこともあります。 これは、相続の問題ですが、これも、民法が取り扱っています。 このように、民法は、人の一生をめぐり多くの場面で関係してくる重要な法なのです。

3 民法の構成

今、説明したことがらは、すべて民法が扱っている問題です。 ここに日本の民法の構成を示した図がありますので、それぞれの問題について、民法のどの部分が扱っているのか、考えてみてください。

4 民法の特徴

それでは、最後に、民法で最も重要な原則について、確認をして、本日の講義を終わりにしたいと思います。 民法で最も重要な原則とは、「私的自治の原則」と呼ばれるものです。 先ほど、民法が最も大切だと考えているのは、私たちの「意思」だと説明しました。

つまり、民法は、私たちは、自分たちの自由な意思に基づいて、個人と個人との生活関係を作ることが理想であると考えているのです。 そして、このことを「私的自治の原則」と民法学では呼んでいます。 具体的な例で考えてみましょう。 男の人は、車を売りたいと考えています。 そして、女の人は、その車を買いたいと考えています。 男の人の意思と女の人の意思が合致した場合、男の人と女の人は、車をいくらで売るという約束、つまり車の売買契約をすることができます。 このように、私たちは、自分の自由な意思に基づいて、車の売買契約などのようなルールを作ることができるのです。

このように民法は、私たちの自由な意思に基づく社会生活関係の形成を目指しています。 そのため、民法の規定の多くについて、条文の内容よりも、私たちの合意の方が、優先するのです。 しかし、基本的な社会秩序に反し、または民法の基本的な制度枠組みから外れる合意を保護することはできません。 そのため、民法の中の一定の規定は、それに反する当事者の合意があっても、条文の内容が優先する場合があります。 そのような規定のことを強行規定と呼んでいます。 なお、具体的にどのような規定が強行規定なのかは、別の機会に説明をしていきたいと思います。

5 民法学習のポイント

皆さんの中には、これから民法を学ぼうとしている人や民法を学んでいる人もいると思いますので、民法の学習方法について、おまけとしてコメントしたいと思います。 民法の学習は、「守らなければいけないルールを覚える」ことではありません。

民法の学習は、考えることです。 民法には多くの規定があり、それらは私たちの公平を図るための基準を示しています。 したがって、何故、このような規定になっているのかについて、当事者の公平の観点から、考え、かつ、解釈を行っていくことが重要なのです。 私たちが、民法を学ぶために必要なのは、①民法の条文と②学習をする人の頭脳で十分なのです。 民法の条文をよく読んで、考えること。 それが民法を理解する第一歩だと思います。

6 参考文献

このスライドは、池田真朗先生の『民法への招待』を基に作成しています。 もし、民法に興味を持った場合、是非、『民法の招待』を読んで、その後、民法の専門書などで学習を進めてください。