<カスタマーハラスメント防止条例>
2024年10月4日、東京都議会は、顧客による著しい迷惑行為の防止を目的とした「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(以下「東京都条例」といいます。)を可決し、同月11日に制定(公布)しました。2025年4月1日から、東京都条例は施行される予定です。
東京都条例は、「カスタマー・ハラスメント」の一律禁止を掲げ、カスタマーハラスメント防止に関する基本理念、各主体(都、顧客等、就業者、事業者)の責務、カスタマーハラスメント防止指針の作成及び公表などを定めています。なお、カスタマーハラスメントを行った者などに対する罰則規定は定められていません。
このようにカスタマーハラスメントを防止することを目的とする条例は、2024年11月には北海道で、同年12月には三重県桑名市でも制定されており、全国的に広がっていくものと思われます。
事業者もカスタマーハラスメントを防止する責務を負っていることから、貴社が取り得るカスタマーハラスメント対策をまとめてみました。
<カスタマーハラスメントとは何か?>
東京都条例は、「カスタマー・ハラスメント」について、「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為等であって、就業環境を害するもの」と定義しています(2条5号)。また、厚生労働省も「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」において、カスタマーハラスメントを以下のとおり定義しています。
① 顧客等(潜在的な顧客も含みます。)からのクレーム・言動のうち
② 当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして
③ 当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって
④ 当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
東京都条例における「著しい迷惑行為等」に該当するか否かは、カスタマーハラスメント対策マニュアルの示す②「内容の妥当性」と③「手段・態様」を総合的に勘案し、「社会通念上不相当」といえるかで判断することになります。そして、「就業環境を害するもの」とは、当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障(平均的な労働者であれば通常見過ごすことができない程度の支障という意味です。)が生じることです。
<通常のクレームと悪質クレーム>
とは言っても、カスタマーハラスメントかどうかの区別は容易ではありません。
そこで、まずは、通常のクレームと悪質クレームを区別することから始めましょう。つまり、会社に寄せられる連絡には、「問合せ・ご意見」、「ご指摘・苦情」があり、その中で悪質性があるもの「悪質クレーム」として対応していく方法です。
そこで、まず重要なのが、顧客の言い分を正確に把握し、記録することです。最初の段階で事実確認と顧客への指摘を適切に行うことが重要です。
その上で、当該クレームが通常のクレームなのか、悪質クレームなのかを「悪質性」の有無によって判断することになります。
「悪質性」の有無は、先ほどのカスタマーハラスメントの定義でも述べたとおり、「内容の妥当性」と「手段・態様」を総合的に勘案して判断することになりますが、ここでは、要求の内容が妥当であり、かつ、手段・態様が相当なものを通常クレームとし、それ以外は悪質クレームとして対応を行うことをお勧めします。
要求内容による判断で妥当ではないものとしては以下のものが考えられます。
○ 企業の提供する商品、サービスに瑕疵・過失が認められない場合
- 正当理由のない返金要求、返品要求
- 高額な慰謝料や迷惑料の要求
○ 要求の内容が企業の提供する商品・サービス内容とは関係がない場合
- 社長や支店長の謝罪要求
- 土下座の要求
また、手段・態様による判断で不相当とすべきものとしては以下のものが考えられます。
- 怒鳴る、乱暴な口調
- 脅迫的言動、暴力的言動
- 長時間の電話、連日の電話
- 店舗や会社への長時間の居座り
- 「役所やマスコミに通報する」との主張
- 「写真や動画をインターネットに載せる」との主張
<クレームに対する対応>
クレームに対する対応については、内容の対応軸と手段・態様の対応軸に分けて対応することを提案します。
まず、クレーム等があった場合、顧客の言い分を正確に把握し、記録することが重要です。聴取すべき事項としては、①事実関係(5W1H)、②要求内容、③氏名、住所、連絡先であり、聴取のポイントとしては、①丁寧に対応し、道義的謝罪や限定謝罪を有効活用すること、②聴取に徹底し、回答は控えること、③記録にすることが挙げられます。
内容の対応軸としては、客観的資料(レシート、診断書、ビデオ録画など)に基づいて調査をし、請求内容が正当か不当かを判断します。この際、先入観を排除し、決して「決め付け」ないことが重要です。
そして、当該クレームの内容が正当である場合は、顧客の要求に対する履行を行うことになります。
もし、当該クレームの内容が不当であると判断された場合は、顧客の要求には応じられない旨を回答し、それでも顧客が納得しないときは、同様の回答を繰り返し、「こう着状態」に持ち込み、対応を打ち切ることが重要です。カスタマーハラスメントに関する誤解として、「顧客の納得がカスタマーハラスメントの解決」というものがありますが、内容が不当な悪質クレームにおいて「顧客の納得」や「解決」を目指してはいけません。「こう着状態」に持ち込むことが重要であり、それでも対応を継続せざるをえない場合は、弁護士などに対応を任せるべきです。
手段・態様の対応軸も聴取と調査までは内容の対応軸と同一ですが、判断において手段・態様が社会通念上不相当と判断される場合は、労働者や会社に対する権利侵害の恐れがあるため、すみやかに弁護士などに相談をし、法的措置(民事上の請求を行う、刑事処罰を求めるなど)を講じる必要性が高いと考えられます。
このような対応が終わったら、会社として、当該クレーム対応を共有し、再発防止のためのフィードバックを行いましょう。
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