-最高裁5判決の概要と解説-

1 「同一労働同一賃金」とは 

  「同一労働同一賃金」とは、一般的に、職務内容が同一又は同等の労働者に対し、同一の賃金を支払うべきという考え方をいうとされています。

 特に、現在の日本では、非正規雇用労働者が全雇用者の約4割を占めているものの、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間には、大きな格差が存在するといわれています。このような文脈においては、同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取り扱いの解消並びに派遣先に雇用される通常の労働者と派遣労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取り扱いの解消を目指すものです。

2 最高裁5判決

(1)各事件の概要

 2020年10月、この同一労働同一賃金に関連する最高裁の判断が示されましたので、その概要を解説したいと思います。次ページの表1に示した5つの判断は、いずれも有期契約労働者と無期契約労働者との間に存在する待遇差が、労働契約法旧20条に違反する「不合理なもの」であるかが争点となった事件です。

 なお、以下の表の争点と判断の概要は、最高裁判所における争点と判断の概要であり、それ以外にも下級審(地方裁判所及び高等裁判所)で判断され、そのまま確定した争点と判断もあります。

(2)大阪医科薬科大学事件
ア 賞与について

 この事件では、まず、アルバイト職員(特にフルタイムのアルバイト職員)に対して、賞与を全く支給しないことは不合理な待遇なのかが問題になりました。

 この点について、最高裁は、労働契約法旧20条に違反するか否かの「判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべき」と判断の方法を述べました。

 その上で、①賞与の目的、②アルバイト職員の職務の内容、③他の正職員(教室事務員)との比較、④正職員登用制度の有無、⑤正職員の賞与支給基準、⑥賞与の性質、⑦契約職員の賞与支給基準(契約職員は、正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと)、⑧年間の基本給及び賞与に関する正職員とアルバイト職員との比較(アルバイト職員は、正職員の55%程度の水準にとどまること)などを総合的に評価し、アルバイト職員に賞与を全く支給しなくても、不合理であると評価することはできない、と結論しました。

イ  私傷病欠勤中の賃金について

 それとともに、大阪医科薬科大学は私傷病により労務を提供できない状態にある正職員に対し給料(6か月)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給することとしているものの、アルバイト職員にはそれが適用されないことが不合理な待遇に該当するのかが争われました。

 最高裁は、この制度は、「正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来に渡って継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるもの」と判断しました。その上で、①アルバイト職員は、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難く、②原告となったアルバイト職員は、その勤務期間が相当の長期間に及んでいるとはいい難いことから、不合理であると評価することはできない、と結論しています。

(3)メトロコマース事件(退職金について)

 メトロコマース事件では、東京メトロの駅構内の売店で販売業務に従事している契約社員に退職金が支払われないことが不合理な待遇なのかが問題となりました。

 最高裁は、退職金についても、大阪医科薬科大学事件と同じ判断枠組みを用いています。つまり、「他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべき」と判断の方法を述べています。

 その上で、退職金の目的や性質などを総合的に考慮すると、本件の契約社員に退職金を支給しなくても、不合理であるとまで評価することができない、と結論しています。

(4)日本郵便(東京)事件

ア 年末年始勤務手当について

 日本郵便(東京)事件では、まず、時給制契約社員が年末年始勤務手当を受け取れないことが争いとなりました。

 この点について、最高裁は、「年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである」と述べ、時給制契約社員に年末年始勤務手当を与えないことは不合理と評価することができる、と結論しています。

イ  私傷病欠勤中の賃金について

 次に、時給制契約社員に私傷病による有給の病気休暇が与えられない点も争いになりましたが、この点について、最高裁は、大阪医科薬科大学事件と同様に制度の目的が当該時給制契約社員にも及ぶのかという判断方法を用いて判断しました。

 そして、結論としては、大阪医科薬科大学事件とは異なり、日本郵便(東京)事件で原告となった時給制契約社員は相応に継続的勤務が見込まれるため、私傷病欠勤中の賃金を支給しないのは、不合理と評価できると判断しています。

ウ 夏期・冬期休暇について

 最後に、時給制契約社員には夏期・冬期休暇が与えられなかった点についても、最高裁は、不合理な待遇であるとの判断を基礎として、原告の損害賠償請求を認めています。

(5)日本郵便(大阪)事件

ア 年末年始勤務手当・年始勤務に対する祝日給について

 日本郵便(大阪)事件では、まず、時給制契約社員又は月給制契約社員であった原告が、正社員に与えられている年末年始勤務手当や年始勤務に対する祝日給が与えられないことは不合理かが争われました。

 この点について、最高裁は、年末年始勤務手当や年始勤務に対する祝日給の目的及び趣旨は、時給制契約社員又は月給制契約社員にも妥当するとして、それらの手当を制限するのは不合理であると結論しています。

イ 扶養手当について

 次に、時給制契約社員又は月給制契約社員に扶養手当を与えないことの合理性について、最高裁は、扶養手当の目的は「正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保する」ものと指摘し、それが原告らにも妥当するのかを判断しました。

 その上で、日本郵便(大阪)事件の原告らは、相応に継続的な勤務が見込まれるため、扶養手当に係る労働条件の相違は、不合理であると評価することができる、と結論しました。

ウ  夏期・冬期休暇について

 最後に、時給制契約社員又は月給制契約社員には夏期・冬期休暇が与えられなかった点についても、日本郵便(東京)事件と同様に、最高裁は、不合理な待遇であるとの判断を基礎として、原告の損害賠償請求を認めています。

(6)日本郵便(佐賀)事件(夏期・冬期休暇について)

 日本郵便(佐賀)事件では、時給制契約社員には夏期・冬期休暇が与えられなかった点が不合理なのかが争われましたが、最高裁は、不合理な待遇であるとの判断を基礎として、原告の損害賠償請求を認めました。

(7)まとめ

 以上のとおり、同一労働同一賃金に関する一連の最高裁の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の待遇差について、特に賞与、退職金、私傷病欠勤中の賃金、年末年始勤務手当、年始勤務に対する祝日給、夏期・冬期休暇、扶養手当に関して労働契約法旧20条の合理性の判断の方法と具体的な事例における判断を示しています。

 それとともに、最高裁は、平成30年にハマキョウレックス事件(最二小判平30・6・1民集72巻2号88頁)と長澤運輸事件(最二小判平30・6・1民集72巻2号202頁)で、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当について、すでに判断をしています。

 よって、これらをまとめると、以下の表2のように分類できるという分析があります。

 なお、今回の判断は労働契約法旧20条に違反する「不合理なもの」かどうかが争われたものです。「旧」20条なので、現在の労働契約法には、この規定は存在しません。しかし、労働契約法旧20条は、その内容が短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート有期法)と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(同一労働同一賃金ガイドライン)に引き継がれています。

 つまり、今回の最高裁5判決や平成30年の最高裁2判決などの判断は非常に重要なものであり、これらを参考にして、パート有期法及び同一労働同一賃金ガイドラインの枠組みに沿った待遇改善を行っていく必要があります。

3 パート有期法における事業主の義務

 パート有期法が定める事業主の義務として重要なのは、

  1. 不合理な待遇差の禁止
  2. 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

です。

 不合理な待遇差の禁止については、最高裁の判例や同一労働同一賃金ガイドラインをもとに検討をしていく必要があります。

 そして、正社員と短時間労働者・有期雇用労働者との間に待遇差がある場合、短時間労働者・有期雇用労働者は、「通常の労働者との待遇差の内容や理由」などについて、事業主に説明を求めることができます。それに対し、事業主は、そのような求めがあった場合、説明をする義務があります。

4 同一労働同一賃金の実現に向けて

 皆さまの会社に、① 短時間労働者や有期雇用労働者がいて、② 正社員と短時間労働者・有期雇用労働者の待遇に違いがある場合、待遇の違いが不合理であると判断される可能性があります。不合理な待遇の違いの改善に向けて、取組を進める必要があります。

 パート有期法は、すでに施行されていますので、短時間労働者・有期雇用労働者を雇用されている会社は、早急な対応が必要となっています。なお、中小企業については、令和3年4月1日から適用となります。

 パート有期法について詳しく知りたい場合は、厚生労働省のウェブサイトに様々な資料が掲載されていますので、それを参考にしてみては如何でしょうか。

 その上で、会社のパート有期法への対応を具体的に進めたい方は、是非、アルンレア法律事務所にご相談ください。短時間労働者・有期雇用労働者に関しては、厚労省のキャリアアップ助成金などのご相談にも対応しています。